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ライオンズ佐藤勇が炭谷のサインに首を縦に振った――プロ初勝利をもぎ取った1球【中島大輔One~この1球をクローズアップ】

西武期待の4年目左腕、佐藤勇が5月24日の楽天戦でプロ初勝利を挙げた。3度目の正直となった先発3戦目でカギを握ったのは、5回のピンチで投じた1球だった。

2016/05/31

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勝利をつかんだ1球、バッテリーそれぞれの思惑

 結果的にこれが勝負球になるのだが、捕手・炭谷銀仁朗の要求に佐藤はすんなりと首を縦に振ることができた。この球を投げることで、前回の後悔を払拭できるはずと考えたからだ。

 17日のロッテ戦では勝利まであと1アウトに迫った5回、佐藤は細谷圭へのカーブが高めに浮き、逆転2点タイムリーを打たれている。その反省が生きたのが、1週間後に同じようなピンチで対峙した松井への勝負球だった。

「前回(カーブで)悔しい思いをしたので、真っすぐのほうが自分も悔いが残らないかなと思って。(炭谷)銀仁朗さんもそう思っていたんじゃないですか」

 一方、炭谷が評価したのは勝負球を投げるまでの“割り切り”だ。福田にセンター前ヒットを打たれ、1死1、3塁とされた直後、マウンドに足を運んでこう話している。

「1点はしゃあない。そのあと、どう処理していくか」

 たとえここでヒットを打たれても、単打ならまだ1点リードしている。それを守り切ることを考えて、松井以下の後続に投げていけばいい。

 炭谷の言葉を受け、佐藤はこれまでぶつかってきた壁を乗り越えることができた。

 「前回のピンチが多少はよぎりましたけど、1点くらいはいいかなという気持ちで投げました」

 そうして初球のフォークは外角低めにボールになったが、きわどいコースで意味のある球だった。続く2球目、内角を狙ったストレートは真ん中高めに行ったものの、球威で松井をサードゴロ併殺に仕留めている。

 「ボール球を振ってくれたので、ちょっと助かりました。でも前回、カーブを投げて打たれているので、自分の一番自信のある球、真っすぐでダブルプレーに抑えられたことは自信になると思うので、次に生かしていきたいと思います」

 対して、炭谷は翌日にこう振り返っている。

 「(最後に)内に行くまでのプランというか、そうした球使いができていました。前回、稼頭央さんに内角に突っ込み切れなくて打たれました。昨日は結果、ゲッツー。過去2戦の反省を生かせましたね。それには、勇ちゃんが真っすぐで行こうという意識があったのと、『1点はしゃあない』という気持ちがあったから、あのゲッツーが生まれたと思います」

 壁を乗り越えた佐藤の勝利が呼び水となり、西武は楽天に3連勝。左腕がチームに勢いを呼び込む投球を見せたのと同時に、今後も先発で起用できる見通しが立ったのが大きい。

 一方、佐藤は次戦以降にこう目を向けている。

 「まずは勝てるピッチャーにならないといけないので、コース、コースに投げられないといけないです。あとは、もっと長いイニングを投げないと、先発としてやっていけないので。そこはこれからの課題かなと思います」

 高卒4年目の左腕にとって、この1勝はあくまでスタートラインだ。

 まだ1軍マウンドに立つ前の2014年前半、入団時から体重を10kg近く増やしたことで球威が増した一方、持ち前の制球力が影を潜めた佐藤はこんな話をしている。

 「周囲から注目されるのは好きですけど、今は期待に応えなくちゃいけないという焦りが多少はあるかもしれませんね。そこが自分の悪いところというか。でも、期待されるのはありがたいし、うれしいですね。悪いところを改善する方法? 地道にやるだけです(笑)。課題をひとつひとつ乗り越えて、まずはそこからやっていくことですね」

 2014年には負傷しているわけでもないのに試合でまるで投げられなかった数カ月を乗り越え、今季、悲願のプロ初勝利を挙げた。そうして託された交流戦初戦のマウンドで、佐藤はどんなピッチングを披露するのか。

 首脳陣から大きな期待を背負う左腕は、課題と向き合いながら一歩ずつステップアップしていこうとしている。

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