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苦しむ伊藤大海、一流になれる資質があるからこそ与えたい「工夫し、研究する時間」【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#198】

侍JAPANの一員としてWBC優勝に貢献した伊藤大海が苦しんでいる。メンタルの問題なのか、メカニックの問題なのか。今、伊藤に必要なのは果たしてなんだろうか。

2023/04/30

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産経新聞社



再起を見守る

 新庄監督は次回登板はローテ通り、機会を与えるが、それでもダメな場合は2軍降格もあり得ると語る。もしかすると2軍再調整がいちばんの近道かもしれないと思う。伊藤大海に考える時間を与えてやりたい。工夫し、研究する時間を与えてやりたい。僕は自分の物書き稼業でも痛感しているが、工夫や研究には燃料が必要だ。それは今川優馬じゃないけれど「執念」、あるいは「意欲」を燃やすものだ。伊藤大海に今、必要なのは自分と向き合う時間だろう。雑音に惑わされず、高い集中力を維持できる練習施設だろう。
 
 いわゆるバーンアウトでないとしても、WBCを経験した選手にとって今年ここまでは出来事(情報量)が多すぎた。リフレッシュさせてやりたい。伊藤大海は必ずよみがえる。今のあの余裕のない状態だとチームメイトに気をつかわせてしまうし、ファンにも動揺が広がる。
 
 KOされてベンチでうずくまった姿について「人前でやるな。奥でやれ」「切り替えてチームを応援しろ」「ナルシストか」といった批判があるのも聞こえてくる。みんながみんなそうだとは思わないが、道産子スターの大海に初めて向けられる冷ややかな声だ。ファンも期待している選手にはきびしい視線を向けるのだと思う。
 
 僕はこの「ナルシスト」については大いに擁護したい。昔、駆け出しのライターだった頃、先輩から「投手族」「野手族」という言い方を習った。投手と野手はぜんぜん違う種族だというのだ。たった一人でマウンドに立ち、すべてを引き受ける投手は自分が主語の物語を持っている。完全主義者もいる。変人も多い。
 
 相手投手に合わせて臨機応変に対応する打者(野手)とは違うというのだ。そもそも野手は10回トライして3回成功すれば一流だ。失敗をおそれず前向きでいられる。投手は一球の失投が命取りになったりする。「豪快な投手」というものは存在しないのだと教わった。大なり小なり、みんな神経質だ。
 
 大海のベンチの姿は「みっともない」とか「ナルシスト」とかいうことではなく、いっぱいいっぱいなのだ。そしてあれが「投手族」なのだ。大海は社会人としての常識を欠いているわけじゃない。あれが今の大海なのだと思う。僕は(いいときだけじゃなく)今の大海も受け止めて、再起を見守りたい。

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