大谷翔平選手をはじめとした日本人メジャーリーガーを中心にメジャーリーグ・日本プロ野球はもちろん、社会人・大学・高校野球まで幅広いカテゴリーの情報を、多角的な視点で発信する野球専門メディアです。世界的に注目されている情報を数多く発信しています。ベースボールチャンネル



顔面死球から復帰のロッテ・肘井、現状打破へ強い決意「生き残るために、怖さを克服する」【マリーンズファーム通信#10】

今季から捕手から外野手に転向する、千葉ロッテの肘井。2年目早々に一軍デビューを果たし、QVCマリンで非凡な打撃センスを見せた。しかしシーズン終盤、二軍の試合で顔面に死球を受けて大けがを負った。その肘井は、今強い気持ちを持って3年目のキャンプを送っている。

2016/02/05

text By

photo

千葉ロッテマリーンズ



一日でも早い復帰のために

 昨シーズン前のオープン戦期間に育成選手から支配下登録された。
 開幕は一軍に抜擢され、プロ初ヒットも記録した。二軍降格後もアピールを繰り返していた矢先に起こったアクシデントだった。肘井の順風満帆だった日々は一瞬にして暗転した。病院には実家のある兵庫県加東市から家族も駆けつけた。仕事を休み、父も付き添ってくれた。なかなか長期の休みを取ることができない仕事に従事している父が1週間以上、横で励まし続けた。その想いが肘井を前に向かせた。
 
「1カ月、バットに触れなかった。でも、『焦らない』と自分に言い聞かせました。もう、シーズン中の復帰はどっちにしろ、ダメ。こうなったら、ベットの上でじっくりといろいろな事を考えようと。自分の弱い部分を見つめ直すキッカケにしようと思いました」
 
 病室のベッドで、いろいろな映像を見た。自分の打撃映像。同じ左打者で今、プロ野球界を引っ張る西武・秋山翔吾、ソフトバンク・柳田悠岐の打撃映像集を入手して食い入るように見入った。時間を有効活用しようと必死だった。
 
 大きな決断も余儀なくされた。
 
 手術痕を顔に残さないためには、あえて患部から遠い頭部にメスを入れることで、顔に傷を作らない方法もあった。そして顔には6カ所に整形用のプレートが埋め込まれた。プレートを抜き取るためには手術を再度行う必要があった。しかし、肘井は家族と相談をして、その両方とも断った。一日でも早く復帰することを大前提の選択肢を選んで行った。父の言葉がそれを決めた。
 
「キズを見ると、苦しいことがあっても、頑張れるのではないかな。野球がやれている幸せを毎朝、鏡を見て、キズを見て感じることができる」
 
 プロとしての強い覚悟だった。支配下登録されて今年が2年目。少ないチャンスをモノにするためには、一日でも早くグラウンドに戻り、首脳陣にバットでアピールをしないといけない。だから、プレートを取るための手術を行う時間が惜しい。体が動くのであれば、顔に傷が残ってもいい。引退をするまではとにかく復帰を最優先にすることを決意した。
 
「別に私生活に影響があるわけではないとのこと。だったら、野球がやっている間はプレートを取るつもりはありません。傷も気になりません。父の言うとおり。このキズを毎日見て、頑張ろうと思う。カッコいいでしょ、このキズ!」

【次ページ】怪我をプラスへ
1 2 3