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加藤貴之の「ムエンゴ」。ノーヒットノーラン達成された悲劇をいつか笑い話に【えのきどいちろうのファイターズチャンネル#175】

まもなく交流戦が終わるが、ファイターズにとってこの期間の最大の話題といえば、二夜連続サヨナラ被弾以上にDeNA今永にノーヒットノーランを達成されたことではないだろうか。しかしこの試合、ファイターズ先発の加藤貴之も素晴らしい投球を披露してくれた。

2022/06/12

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産経新聞社



日本ハム・加藤貴之

防御率1点台も、勝ち星に恵まれない今季

 北山亘基の二夜連続サヨナラ被弾(ヤクルト戦、神宮)で始まったファイターズの2022年交流戦だが、最大のエポックは何かというと今永昇太のノーヒットノーラン(6月7日・DeNA戦、札幌ドーム)に尽きるだろう。本稿のテーマは「交流戦総括」のつもりでいたのだが、たぶんちょっと時間が経てば皆、ノーヒッターのことしか覚えていないだろう。
 
 もちろん(サヨナラ弾もそうだが)「ノーヒッター達成」の陰にはそれを食らった側がいる。世の中のほとんどの記事は「ノーヒッター達成」のストーリーだろうから、僕はファイターズが主語のコラムを書きたいと思うのだ。食らった側。あの試合は清宮幸太郎が四球で出塁していなければパーフェクトゲームだった。現に「準完全試合」というワードを用いた記事も見かけた。危ねぇ危ねぇ、幸太郎グッジョブだ! ちなみに今季、彼がいいところで四球を選んでいるなぁと思うのは僕だけだろうか。
 
 交流戦全体の流れでいえば甲子園で3連敗し、ぐったり疲れて北海道へ帰ってきたタイミングだった。交流戦は「野球の応用問題」だ。知らない投手や打者を相手にする。甲子園のように「知らない環境条件」のなかでも戦う。僕は若いチームがそこで揉まれて力をつけるのを期待したが、そう簡単ではなかったようだ。若さの勢いは次第に失速し、応用問題を解くには未熟さのほうが目立つ。まぁ、僕はそれでも難問に挑むことが貴重だという考えだが、今永昇太には苦もなくひねられてしまった。「ザ・プロ」と評すべきピッチングだった。
 
※ちなみに大記録達成の瞬間、僕はGAORA中継の画面に向かって拍手していた。敵ながら天晴れ! これはもう称えるしかない。別の部屋にいた家人が拍手に気づいて「ファイターズ勝ったの?」とやって来たほどだった。いや、負けました。それも札幌ドーム初の大記録を打ち立てられて。
 
 ところで「ノーヒッター達成(されました)」をファイターズが主語のコラムで描くとき、加藤貴之の悲劇に触れざるを得ないではないか。これはひとことで表現できる悲劇だ。無援護。ネットの野球スラングでは「ムエンゴ」とカタカナ表記するようだ。昭和世代の僕は『マタンゴ』(63年東宝、本多猪四郎監督、円谷英二特撮監督)を思い出す。が、「ムエンゴ」は無人島のキノコの化けものではない。好投しているのに打線の援護がないことだ。
 
 たぶんちょっと経てば今永のノーヒッターが稀に見る投手戦だったことも忘れられるのだろう。加藤貴之はこの日、6回74球を被安打4、奪三振4、無四球、無失点でまとめている。見てるこっちは両左腕のピッチングに酔っていたから、74球での降板は意外だった。おそらくベイスターズは加藤を下げてくれて助かったと思うのだ。
 
 加藤は今季ずっと良いピッチングをしている。この日の6回無失点でとうとう防御率は1点台(1.93)まで下がった。ところが12試合投げて星勘定は2勝4敗だ。本当に援護に恵まれない。ファイターズファンからすると、ついに加藤の「ムエンゴ」がノーヒットノーランまで行きついたかという実感だ。僕らは究極の「ムエンゴ」を見たのかもしれない。

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