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「悔いはあるけど後悔はない」――最終回を迎えた、漫画『プロ野球選手・山本昌物語』

球界最年長、現役最多勝利の男が、ついにユニフォームを脱いだ。中日ドラゴンズ・山本昌にとって、プロ野球生活32年間とはどのようなものだったのだろうか。

2015/10/09

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「後悔はあるけど悔いはない」の意図

 名古屋市内で行われたその引退会見は1時間以上にも及んだが、そこで語られた言葉の中で、最も彼の心情を的確に表していたものは「悔いはあるけど後悔はない」というフレーズだろう。
 
「悔いがある」というのは、今季一軍初登板となった8月9日のヤクルト戦で、左手人差し指を突き指して、わずか2回途中22球で降板してしまったこと。32年間のプロ野球生活で最も悔しい出来事だったという。そこには、最年長勝利の世界記録を更新できず、多くのファンの期待に応えられなかったことも含まれる。また、日本シリーズで一度も勝てなかったことも心残りだという。
 
 一方、「後悔はない」というのは、32年間も憧れのプロ野球選手生活を続けられたことを意味する。自ら「才能はない」と言い切るほど素質には恵まれなかった。でも、ドラフト5位で入団したそんな平凡な選手が、数々のタイトルを獲得し、幾つも記録を打ち立てたのだ。そんな自分のキャリアに、もちろん本人は満足している。
 
 実は、山本昌はこの「悔いはあるけど後悔はない」というフレーズを、以前から引退会見で使おうと決めていた。かつて中日ドラゴンズの監督だった星野仙一さんが、よく「俺はお前らのことを信頼はしているけれど、信用はしとらん」と選手に対する気持ちを表現していたらしい。その星野元監督の言葉を参考にしながら、自らの微妙な胸の内を表現しようと思っていたのだ。
 
「悔いはあるけど後悔はない」がいいのか、それとも「後悔はあるけど悔いはない」の方がいいのか、真剣に悩んでいた。
 
 やり残したことはある。でも、最高に幸せなプロ野球人生だった。山本昌の偽らざる気持ちを表したいい言葉だと思う。
 

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