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NPB球史に残る大接戦に。柳田悠岐と秋山翔吾の「首位打者争い」【広尾晃の「ネタになる記録ばなし」】

ブログ「野球の記録で話したい」を運営中で『プロ野球解説者を解説する』(イーストプレス刊)の著者でもある広尾晃氏。当WEBサイトでは、MLBとNPBの記録をテーマに、週2回、野球ファンがいつもと違う視点で野球を楽しめるコラムを提供していく。今回は「パ首位打者争い」だ。

2015/09/12

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二人のデッドヒートで「2位の最高打率」更新の可能性も

 NPBの過去の首位打者争いをみていこう。
 僅少の順番に20傑だ。

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 NPBでは過去に2度、打率.333で首位打者を分け合ったケースがある。
 1969年は近鉄の永淵を東映の張本が急追。張本は東映の最終戦で5打数3安打して永淵に追いついた。永淵は翌日の近鉄の最終戦を欠場し、首位打者を分け合った。

 1987年は、10月9日の直接対決で篠塚が1打席目凡退、打率が並んだ。これを見た正田はベンチに下がり、以後篠塚は4試合、正田は10試合打席に立たず、首位打者を分け合った。
 どちらのケースも打率が並んだ時点で、両者ともに打席に立たないという少し残念な結果に終わっている。

 そういう意味では最もすごいデッドヒートは1976年の中日谷沢と巨人張本の争いだろう。

 この年、日本ハムから巨人に移籍した張本は快調に飛ばし、10月16日の最終戦を終えて513打数182安打.35478、2位の谷沢はこの時点で486打数171安打の.35185、しかし続く2試合で6打数2安打だったために.35163とさらに差が開いてしまう。

 残るは10月19日の広島ダブルヘッダーのみ。第1試合で4打数以内に3安打すれば、張本を抜くことができる。
 谷沢は2打数2安打で3打席目を迎えたが見逃し三振。しかし最終打席で高橋里志から中前に運び、大逆転。その差0割0分0厘0毛6糸。張本は江藤愼一に次ぐ史上二人目の両リーグ首位打者を逃した。

 中日ベンチでは監督やコーチが電卓を叩きまくっていたと聞く。

 4番目の古田と落合のデッドヒートも激しかった。落合も両リーグ首位打者を逃した。
 1956年の豊田泰光と中西太はチームメイトの争い。以前にもふれたが、三原脩監督は豊田と中西をともに休ませて、豊田に首位打者を取らせた。中西はこのため、戦後初の三冠王を取りそこなった。
 現役の中島裕之と、引退した前田智徳は2度も僅差で首位打者を逃している。二人ともタイトルは獲得していない。

 こうしてみると、首位打者争いにまつわるエピソードは人間臭く、ドラマチックなものが多いことがわかる。
 優勝目指して突き進むソフトバンクは残り21試合、西武は14試合。西武は試合間隔があき、調子を維持するのは難しくなるが、ロッテとクライマックスシリーズ出場をかけて争っている。柳田・秋山のモチベーションは高いはずだ。

 こういう形で二人がヒートアップすることで、もう一つ、NPBの記録が生まれる可能性がある。

 それは「2位の最高打率」だ。
 これまでは1986年巨人のウォーレン・クロマティが記録した.363(471打数171安打)。この年は阪神のランディ・バースがNPB記録である.389(453打数176安打)を記録したため、涙を飲んだものだ。

 二人は「そんな記録、ほしくない」と言うかもしれないが、そのくらい競り合って、球史に残る首位打者争いをしてほしいものだ。

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