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【元ドジャーススカウト、小島圭市の禅根夢標】田中将大投手は、投球スタイルの転換を~ヒジの故障から考える日本野球界の課題

ベースボールチャンネルでは、月2回、読売ジャイアンツなどでプレーし、その後ロサンゼルス・ドジャースの日本担当スカウトとして当時、黒田博樹投手や齋藤隆投手の入団に携わった小島圭市氏の連載をスタートさせます。小島氏は現在、(株)K’sLabを立ち上げ、スポーツ環境の向上から青少年の育成に積極的に関わっています。この連載では、日本の野球界が発展するための視点から、一つのテーマを深く掘り下げ、野球ファンや、野球指導に携わる皆さんに問題提起をしていきたいと考えています。第1回目は「田中将大投手は、投球スタイルの転換を~ヒジの故障から考える日本野球界の課題」です。

2014/09/26

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目指せ、マダックス投手。投球スタイルの転換を

 田中投手は手術をしない方法を選びました。正しい方向に進んだと言えるでしょう。ただ、中4、5日で投げた時に、その靭帯で大丈夫なのかという不安は残ります。
 
 あまり知られていませんが、靭帯は鍛えられませんから、これからは靭帯の周辺を鍛えて靭帯をサポートしていくことになります。
 
 そんな状態であることを考えると、田中投手は転換期にあるとも考えられます。というのは、彼がコントロールを重視した、低めにスプリットとシンカーを投げていく投手に変換していくいい時期だということです。
 
 MLBで355勝、殿堂入りしたスーパースターのグレッグ・マダックス投手は、150km/hを投げていたのにも関わらず、方向転換をして成功したピッチャーでした。
 
 150km/hの球を投げていたマダックス投手は、「このままではクビになる」と決心して、ボールの変化とコントロールに重きを置いたピッチングに転換します。
 そうして、彼は大投手への階段を昇っていったのです。
 
 田中投手もマダックス投手のように転換するにはいい時期だと私は思います。
 
 問題は彼がその点をどう考えているかでしょう。
 実際、田中投手のピッチングは、去年に比べれば、ピッチングスタイルが変わっています。力感を感じなくなりました。例えば、ダルビッシュ投手は、ストレートで勝負するという姿勢が見えましたが、田中投手は、低めを意識して、バッターをものすごく警戒しているというのが見えました。
 
 シーズン当初、私は、田中投手のこの変化が彼の才能によるものなのか、それとも、どこか体の具合が悪い影響によるものなのか、答えが見えてきませんでした。
 
 田中投手はメディカルチェックでは何の問題もなかったということですから、悪くないという前提のもとで考えると、おそらく、キャンプの時点で彼のストレートがMLBで通用しないということを感じて、そうなったのではないかと推察します。
 ストレートの率が少ないことが、そう思う理由です。 
 
 田中投手がどういう方向性を見出していくのかはわかりません。しかし、もし今回の故障でマダックス投手のような転換期を迎えたのだとしたら、彼の未来は明るくなるでしょう。
 私自身は、ああいうピッチャーを目指したほうがいいと思います。そうなれば、毎年15勝できるピッチャーになる可能性があります。
 
 なぜなら、田中投手にはスプリットがあるからです。あのスプリットを低めに投げて、ストライクとボールの出し入れができたら、そう簡単には打てないでしょう。
 
 また、黒田投手と同じチームにいることによって、シンカーの精度も上がっていくと思います。シンカーは、1年よりも2年、2年よりも3年と、投げていくうちに精度が上がっていくもの。黒田投手のようにいくつかのシンカーを投げられるようになります。
 
 150km/hの剛球を投げて、ハードスライダーだけのピッチャーじゃない、本当の新しい投手に生まれ変わることができるでしょう。当然、ピッチングフォームも変えなくてはいけなくなると思いますが、それは1年2年がかりでやっていくことです。
  
 そうなってしまうと、田中投手の良さがなくなると意見があるかもしれません。
 
 しかし他に彼のような可能性がある投手がいるでしょうか? 160km/hを投げる投手はたくさんいますが、コントロールと変化球と配球で、35歳を過ぎて投げられる投手がどれだけいるのかということです。
 
 黒田投手の安定感はすごいですよね。勝ち星云々ではなく、200イニング投げられるのがすごいことなのです。ピッチャーの価値は、そこにあるのです。

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