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大ブレイクの有望株が開幕マイナーでも選手組合は物申さず? 穏健路線に変化する世界最強の労働組合【豊浦彰太郎の Ball Game Biz】

この春に大ブレイクのブライアント三塁手(カブス)は、球団の思惑で開幕マイナーが濃厚だが、かつて世界最強の労組と恐れられたMLB選手組合は事態を静観している。時代とともにその対機構路線も変化しているようだ。

2015/03/29

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時代背景を象徴する、リーダーの個性

 それは、労使協定には抵触しないカブスの行動に異議申し立てをしても勝ち目がないことに加え、かつては、「世界最強の労働組合」として恐れられた組合も、近年は対機構協調路線を取っているからだ。2013年に勃発した、アレックス・ロドリゲス(ヤンキース)ら計13選手の処分に至った薬物使用疑惑での対応などはその好例だ。
 
 現在の組合専務理事は、2013年に就任したトニー・クラーク。54年ぶりの選手出身者だ(ヤンキース時代には、東京ドームでスコアボードの電光掲示板を一部破壊する大本塁打も放った)。現役時代から人格者で知られ、その物腰は見るからに穏健派だ。
 
 実は、選手組合は1994-1995年のストライキ以降は、徐々に軟化傾向を示し、クラークの前任のマイケル・ウェイナー時代(2009年就任も13年に脳腫瘍で死去)に頂点に達した。
 MLBのバド・シーリグ・前コミッショナーのビジネス拡大路線もあり、機構と組合は限られたパイを奪い合う関係ではなく、協調によりパイを拡大するwin-Winの関係になったからだ。そして、その背後には2008年にリーマンショックこそあったものの、1990年代からの好調なアメリカ経済があったことは見逃せない。
 
 かつてはそうではなかった。
 途中での中断時期も含み1966年から1983年まで組合の指揮を執ったマービン・ミラー(2012年に95歳で死去)の時代は、正にその象徴だった。野球人ではなく、元鉄鋼労連のエコノミストの労働運動家だった彼は強硬な活動家で、目的達成のためにはストライキも辞さずのスタンスを貫き、球団オーナーたちと激しいバトルを繰り広げた。特に1981年のストライキは2カ月近くにも及び、彼自身も多くの批難に晒された。しかし、組合は彼の治世下、FA権や年俸調停権などの成果を勝ち得た。
 
 ミラーがそこまで豪腕な労働運動家となった背景にも「時代」があった。彼は1917年生まれ。アメリカが第一次世界大戦に参戦し、ソビエト連邦が形成されたのがこの年だ。国内ではT型フォード生産の最盛期を迎え、軍需に支えられた工業も急成長し、それに伴う労使の衝突が頻発していた時代でもあった。そして第二次世界大戦後には「アカ狩」のマッカーシー旋風が猛威を振るった。
 要するに、ミラーの育った時代、そして青年期や働き盛りの時期を過ごした時代は自動車を中心にまだ工業がアメリカを支えていた時代で、強烈な労働運動家を輩出する素地があったのだ。
 
 ミラーの実質的な後継者ドナルド・フェアの時代は83年から09年まで及んだが、彼が就任した時期も、日本企業の進出で米産業が苦戦した時代だ。年俸総額に上限を設定するサラリーキャップ制度の導入を争点とした1994-1995年ストライキにおいて、彼がオーナー達に一歩も譲らぬ姿勢を貫いたのもある意味では理解できる。
 
 国民的娯楽のベースボールはアメリカの縮図だ。組合リーダーの個性や戦略も時代背景を象徴している。
 
 
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