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日曜劇場『下剋上球児』原案 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル#5 軍手をはめた野球部員

2023/10/10

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菊地高弘



生命保険を解約、環境整備に大きな援軍

 しかし、草や木を取り除いても、外野フェンスがなければ試合はできない。そこで東は上野時代から世話になっていた、鉄工所に勤める保護者に連絡を取る。
 
「ネットをたくさん作ってもらえませんか?」
 

 
 1メートル50センチ四方程度のシンプルな防球ネットを大量に作ってもらい、外野の奥に半円状に並べれば立派な“外野フェンス”になる。だが、白山の野球部にそんなネットを購入するだけの予算があるはずもなかった。
 
 そこで、東は結婚したばかりの妻にこう申し出る。
 
「俺が独身時代に積み立てていた生命保険があるんやけど、それを解約して使ってもええか?」
 
 貯蓄型の生命保険は、その時点で約100万円になっていた。妻の承諾を得て100万円の自己資金を得た東は、外野フェンス用の防球ネットを購入。さらに前監督が自腹で購入していたマイクロバスを40万円で安く譲渡してもらった。
 
 そして、東にとって大きな援軍が登場した。それは隆真の父・義則である。義則は津市内で「青木建設」という、住宅リフォームなどを手がける建設会社の社長を務めている。前監督時代から息子の応援に駆けつけては、「日差しがえらい(しんどい)ので、屋根を作ってもええですか?」とベンチに屋根を取りつけるなど、環境整備に一役買っていた。東が監督になった後も、義則は「鳥カゴ」と呼ばれる四方をネットで区切った打撃練習ケージを作るなど、職人ならではの仕事ぶりで貢献したのだ。
 
「自分は野球にはくわしくないので、東先生に言われるがままに作っとりました。私がやったのは、主にバックネット裏の整備ですね。材料代だけいただいて、手間はボランティアですわ。あとは突風が吹きやすい土地柄なので、台風が来るたびに壊れたベンチやネットを直していましたね」
 
 選手たちは野球の練習よりも野良仕事のほうがメインの日々を過ごした。もちろん「野球がしたい」と不満を募らせる部員もいたが、隆真は未来に希望を見ていた。
 
「『グラウンドを自分たちが変えているんや!』という楽しみがありました。もちろん試合はしたかったですけど、来年1年生が入ってくればできるやろうと。まるで自分たちの家を作っているような感じでしたね」
 
 内野に黒土を入れ、外野にネットを並べ、最後にポールを建てる。グラウンドの規格は甲子園球場の数字にそろえた。それは、東の「いつかこの学校から甲子園を目指せるだけのチームができるように」という思いが込められていた。

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