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日曜劇場『下剋上球児』原案 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル#4 屈辱の壮行会

2023/10/10

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菊地高弘



ヤンキーの「予言」が的中した最初の夏

 初戦の対戦相手は同じく公立高校の紀南。紀伊半島の東部、三重最南端の高校であり、地理的に生徒が集まりにくい条件は紀南も同じだった。それだけに、東としては「勝てやんでも、9回まではできるやろう」と考えていた。三重大会は5回終了時に10点差、7回終了時に7点差がついていればコールドゲームになるが、たとえ紀南に勝てないとしてもコールド負けは回避できるだろうと踏んでいた。
 
 試合は3回表の白山の攻撃を終えた時点で2対2。三重県営松阪野球場の白山側応援スタンドに集まった、数少ない関係者も歓声をあげた。
 

 
 しかし、そこから東が「地獄でした」と振り返る展開が待ち受けていた。白山守備陣は四球やエラーを連発し、3回裏に1点、4回裏に6点と失点を重ねていく。
 
「選手たちは冬の練習をしていないので、試合が進むにつれて体力がなくなって、足が動かなくなっていくんです。ベンチで見ていて、『なんでそうなるの?』と思うようなプレーが続きました」
 
 5回裏に3点を奪われ、この時点で2対12。コールドゲームが成立した。東が白山に赴任して最初の夏は、5回コールドであっけなく散った。皮肉にも、壮行会でヤジを飛ばしたヤンキーの「予言」が的中した形になった。
 
「誰も注目なんかしていないんやろうけど、上野で曲がりなりにもやってきた自負はあったんです。勝てるはずはないけど、なんとか9回まで騙し騙しでもいいからやりたかった……」
 
 東はそんな苦い思いを噛み締めていた。
 
 
第5回につづく)
 

書籍情報


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【著者紹介】
菊地高弘
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、ライターとして独立。 『中学野球太郎』誌上では打者として有望中学生投手と真剣勝負する「菊地選手のホームランプロジェクト」を連載中。 著書に『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)、『野球部あるある』シリーズ(「菊地選手」名義/集英社)がある。 Twitterアカウント:@kikuchiplayer
 
 

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