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【ドラフト交差点】藤平尚真(横浜)と今井達也(作新学院)、遅れてきた2人の正統派。それぞれの重圧と課題を乗り越え

2016年度のドラフト会議が20日に迫っている。この1年を振り返ると、様々な選手たちがドラフト戦線に名乗りを上げてきた。そんなドラフト候補たちをリポートする。第1回は藤平尚真(横浜)と今井達也(作新学院)。

2016/10/12

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速いだけの投手だった以前までの今井

「U18高校日本代表に入っていなければこんな気持ちにはなっていなかったですね」

 今井は、甲子園優勝後の大会をそう振り返っている。激動のこの夏を最高の結果で収めた満足感で終わらないところが今井という男なのかもしれない。

 この夏、今井ほど、一気にスターダムにのし上がった選手はいない。
 それまでの今井といえば、気になる投手の一人ではあったが、その細身の体からも、そして、安定感を欠くピッチングからも、見劣りするというのが評価だった。

 それを180度変えたのが、甲子園の初戦となった2回戦・尽誠学園戦だった。

「甲子園に行くことが決まった時には、関東地区もそうだったんですけど、好投手が多い大会だったので、その中で自分の力がどれくらいなのか試せるいい機会だなと思っていました。チームのモットーでもあるんですけど、下剋上といいますか。名前を挙げてやるくらいの気持ちをもっていました」

 ゆったりとしたフォームから投げ込まれる150キロを超えるストレート、そして、打者の手元で鋭く曲がるスライダー。それまで“BIG3”と報じてきたメディアが、修正を余儀なくされる快腕の登場だった。

 初戦で快投を見せると、投げるたび、成長の跡を見せていく。準々決勝では木更津総合・早川との投げ合いを制した。このときの、敵将・五島卓道監督の言葉が、今井の何よりの成長ぶりを表している。

「6月に作新学院と練習試合をしたんですよ。その時の今井君とは別人でしたね。あの時はコントロールが荒れたピッチャーでしたから、漬け込む隙はあるだろうと思っていましたけど、そんな隙はなかった」

 今井のストレートは高校2年になってから速くなりだしたという。
 しかし、昨夏の甲子園。今井は県大会ではベンチ入りしながら、メンバーを外されている。今井には修正すべき課題があったからだった。

「監督に言われてきたのは、球が速いだけのピッチャーは山ほどいる。いかにチームを勝たせるピッチャーになるかだぞと。夏にメンバーから外れて、その悔しさがいいきっかけになったのかもしれません」
 
 勝てる投手への変貌。すぐにその術を習得できたわけではない。最初は6割くらいの力でセーブしながら投げるうち、軽く投げながらでも速い球が行くコツをつかむようになっていったという。

「夏前に横浜高校との練習試合で引き分けだったんですけど、このときに、何かつかめたものがありました。野手が困っているときは三振を取ることができて、リズムをつかみたいときは内野ゴロを打たせることができる。そんなピッチングが理想」と今井は話している。

 そして、「伸び率で勝負する」とチームメイトと意を決したこの夏、一気に頂点にまで駆け上ったのである。今井は言う。

「シートノックからでもうまくなるチャンスだと、チームみんなでそう声を掛け合って、成長をすることを目指してやってきました。僕はピッチャーですから、最後の試合の最後の1球まで成長できると思って自分を高めてきた。それが結果につながったと思う」

 大会後のU18日本代表は、今井がエース級の活躍を見せて、アジア選手権優勝を果たした。

 当然、果たした快挙には手ごたえを感じているが、やはり、高校を代表する選手たちと同じチームに入ったことで学ぶことがあったという。

 「自分の体の細さを痛感しました。藤平や高橋、寺島成輝(履正社)の体を見た時は圧倒されました。優勝しただけだったら、満足していたかもしれませんが、代表に入って自分の課題が見えた。身体を作ること。故障しない、プロで戦える体を作っていきたいです」

 この夏、颯爽とBIG3に肩を並べる存在になった“シンデレラ”のような逸材は、甲子園優勝に甘んじることなく、ずっと先を見つめている。

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