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高校野球史上初サヨナラボークで決着。西武・上本、延長15回の死闘「いい経験をした」【夏の甲子園、忘れられないワンシーン】

今年で101回目の夏の選手権を迎える甲子園。これまで、様々なドラマが見るものを熱くさせてきた。ただ、それは汗と涙の感動だけでは言い尽くせない、裏の物語がある。7日に開幕する甲子園を前に3回連載にて今までは語られなかった思い出を振り返る。

2016/08/02

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二人にとって貴重な経験

 上本は「サイン伝達が禁止されている今の時代だったら起きないことだった」としながらも、あの経験が与えたことは決してマイナスではないという。

「あの試合が終わった時は『俺のせいや、スマン』って藤田にいいました。あいつはまだ2年だったから、『来年があるからええやん』といっていたんです。けど、今、あいつに会ってあの時のことを話すと『俺のおかげやぞ』って笑って言うんです。僕らはあの時、勝つために必死にやっていただけでしたけど、普通、負けたチームのことをそんな取り上げないじゃないですか。いろんな人がこの試合のことを話してくれて、いろんな人と交流を持てた。それは僕にとってはいい経験でしたね」

 実は、過去に、藤田に取材したときも、上本と似たようなことを話している。

「あの日のことを忘れようと思ったことは1日もありませんでした。自分では人に何かを与えようと思ってプレーしていたわけではなく、ただ一生懸命やっていただけでしたけど、その姿をいろんな人が見てくれて、声を掛けてもらった。負けて悔しいという想いはありましたけど、いろんな人と触れ合うことができて、自分は謙虚にやっていかないといけないなぁと思えるようになりました。貴重な経験でした」。

 高校野球は時に残酷な結末を用意するときがある。
 だがそれは、その一瞬では決して見えないけれど、人生を生き抜く題材としての生きるヒントを与えることも時としてある。

「サヨナラコリジョンに、サヨナラボーク。僕が試合に出ているといろんなことが起きますよ」

 上本はそういって快活に笑った。

「控え捕手」という立場でありながら、14年の現役生活を続ける男の背中には、たくさんの経験が詰まっている。

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