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「野球人生が変わりました」。高橋光成を変えた前橋育英・荒井監督の存在

2013年、夏の甲子園で彗星のごとく表れ、前橋育英の初優勝に大きく貢献した高橋光成。その後は疲労やケガに泣き、登板できない日々が続いた。ケガも完治し、2014年ドラフトの注目株が、この1年を振り返った。『ベースボールサミット第3回 やっぱり甲子園は面白い』(http://jr-soccer-shop.jp/products/detail.php?product_id=1062)P.214-P.220より引用

2014/10/18

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プレッシャーとの戦い

 甲子園を終えて間もなく、18U日本代表に選出された。松井裕樹(桐光学園高→東北楽天ゴールデンイーグルス)や、安樂智大(済美高)など同世代の猛者たちのピッチングを目の当たりにし、多くの刺激を受けた。間違いなく高橋にとって大きなターニングポイントとなる、実り多い遠征になったのだが、深夜に帰国した翌日、いや正確に言えばその数時間後にセンバツへ続く秋季大会の初戦がある。
 
 当然ながらそれまでのハードスケジュールを危惧し、荒井直樹監督は高橋をスタートから外した。しかし、新チームが発足して間もない前橋育英に対し、初戦の相手である太田工業は新チームで1カ月半近く、練習を重ねてきている。急きょ、登板予定のなかった高橋も3番手としてマウンドに上がったが、結果は3対4で初戦敗退。センバツ出場の可能性が潰えた。
 
 とはいえそれも、マイナスばかりではない。センバツに出場して連投を続け、肩や肘を酷使するよりも、冬から春にかけ、じっくり体づくりができる時間が増えたのは大きなプラスになる。特に下半身強化を掲げ、トレーニングに励む高橋にとっては、願ってもない時間だった。
 
 思わぬ事態に見舞われたのは、そんな矢先の1月だった。
 バント練習の際、投球を当て、右手の親指を骨折。幸いにも重傷ではなく、夏の大会には十分間に合うケガであったが、焦りを抱かないわけはない。
 
「痛いとかはなかったです。でも、ちゃんと投げられるかな、と不安でした」
 
 指のリハビリに励む一方で、体幹や下半身強化のメニューに取り組む。走り込みなど、トレーニングのたびに「信じられないぐらい筋肉痛」と思わず苦笑いを浮かべるほどのスペシャルメニューをこなした結果、体重は6キロ増えた。
 
 投げ込みの時期は昨年より遅れたが、その分体力づくりができた。高橋自身も、チームも夏に向け、一段ずつ着実に成長を遂げている手応えを感じていたが、大事を取って先発は回避した春季大会、初戦で強打を武器とする樹徳に敗退。すると、春のマウンドに立つことがなかった高橋の、根も葉もない噂も耳にしたと言う。
 
「肘を壊して再起不能らしいって。なんだそれ、って思いますよね。誰が言うんだろう? って、びっくりしました」
 医者からも「完治したから大丈夫」と言われているのに、驚くような噂が流れる。
 
 優勝しても、自分自身や周りの仲間は変わらないが、確実に変わったものもある。
 周囲が、自分を見る目だ。
 
 休日に街を歩けば声をかけられ、修学旅行でプロ野球のキャンプを見学に行っただけで、スポーツ新聞に取り上げられる。練習試合のたびに多くのマスコミが訪れ、不本意なピッチングに苛立ちを感じるときも取材に応じなければならず、その場で、多くのスカウトが訪れていることを聞かされる。
 
 知らず知らずのうちに、これまで感じることのなかった疲労やプレッシャーが蓄積していた。
 
「自分ではそれなりに投げられたかな、と思っても打たれたり、うまくいかない。でもスカウトの人たちが見ている前で打たれたらダメだ、と気負ってしまって。調子は悪くないのに、なかなか、自分のピッチングができませんでした」

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