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安定的な収益確保に必要な、スタジアムの運営【前日本ハム球団社長・藤井純一氏#5】

現在、日本のプロ野球界で実に効率的なチーム作りをしているのが北海道日本ハムファイターズである。東京から北海道へ移り、地域密着に成功した球団の土台を築いた一人が藤井純一前球団社長だ。これまでの藤井氏の話を聞くと、「負けない」ファイターズ、「集客力のある」ファイターズの土壌が見えてくる。

2015/08/22

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スタジアムの運営権というハードル

 実はファイターズの足元は他の球団と比べると脆い。
 現在の球団経営ではスタジアムの所有、あるいは運営権を握ることが重要である。
 
 2012年3月、福岡ソフトバンクホークスは870億円で本拠地の福岡ドームを買収した。
 あるいは、楽天イーグルスは「指定管理者制度」を利用して、県営宮城球場を格安の契約で手に入れ、新規参入の初年度に黒字を出した。
 
 指定管理者制度とは、地方公共団体が設置した公共施設を民間企業や団体を指定して管理運営を委託する制度である。
 
 ファイターズが本拠地としている札幌ドームは、2001年6月に開業。天然芝のサッカー用グラウンドと人工芝の野球用グラウンドが併用可能である。施設は札幌市が所有し、札幌市と道内財界各社が出資する第三セクター『株式会社札幌ドーム』が運営管理している。
 
 ファイターズは試合開催時のみ、球場の営業権を札幌ドームから賃貸している。チケット代の一定パーセントを札幌ドームに支払う形になっている。
 試合の日、仮設の広告スペースのみはファイターズが営業できる。そのため、2008年の段階で、楽天より本拠地スタジアムの収容人数が2倍近いにも関わらず、広告収入は10億以上離されていた。
 
 仙台周辺と札幌商圏の規模の大きさを比較すれば、この関係は逆転してしかるべきだろう。かつて藤井は筆者に対して冗談まじりに様々な〝案〟を披露していた。
 
――(札幌)円山球場を買い取って、改装してもいい。
――北海道の主な施設で指定管理制度で獲れそうなところは全部獲れと言っています。
 
 しかし――。
 現在、藤井はファイターズの社長を退いている。2015年の今もファイターズはかつてと同じ形態で札幌ドームを使用している。

「ぼくらはよく言うていたんです。誰でもいいから300億貸してくれと。ファンドの人にも冗談で頼んだことがあるわ。300億円を用意して、他のところにスタジアムを作るけど、どないする? って札幌市に行こうかと」
 藤井はフフフと声を挙げて笑った。
 
「コンサドーレ札幌は試合のとき、好きに看板を付けている。でも野球は駄目。野球と比べると差別されている」
 サッカーの試合時にはスタジアムの仕様を変更することもあり、コンサドーレにはピッチ周辺の看板の販売権が与えられている。
 
「それだけやなくて札幌市から補助金も出ているでしょ?」
 札幌市はwebでも公開しているが、主たる責任企業のないコンサドーレに対して大幅な「利用料減免補填補助」、運営資金「貸し付け」を行っている。
 
 それと比較するとファイターズにはシビアな対応であるといえる。
 札幌ドームは、スタジアム周辺の店舗の売り上げから一定パーセントを受け取っている。試合をするファイターズもその例外ではない。オフィシャルグッズショップでさえも、マージンが取られるため、ファイターズは直営店を閉め、札幌ドームに委託する形で商品を卸すことになった。
 
「冗談で引退した選手には札幌市長選挙に出ろって言うたりね」
 
 まさにスタジアムはファイターズにとって喉元に刺さった小骨のようなものだ。
 
——–
藤井純一(ふじい・じゅんいち)
1949年大阪府生まれ。近畿大学農学部水産学科卒業後、日本ハムに入社。1997年、Jリーグクラブのセレッソ大阪(大阪サッカークラブ株式会社)取締役事業本部長に就任、2000年に同社代表取締役社長。2005年、株式会社北海道日本ハムファイターズ常務執行役員事業本部長に就任。翌年から2011年まで代表取締役社長(06、07、09年にリーグ優勝、※06年は日本一)。現在は近畿大学経営学部特任教授を務める。
 

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