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元ロッテ・香月良仁のプロ野球人生#2 隠していた左足の靭帯断裂、トライアウトを受けなかった理由

今季、千葉ロッテマリーンズを退団した香月良仁。自身の野球人生は、いつ途切れてもおかしくなかった。しかし運命的な野球人との出会い、さらに野球を諦めさせなかった今は亡き父の存在によって、香月はプロ野球という限られた人しかプレーできない世界に足を踏み入れることができた。

2016/11/23

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今自分ができること、伝えられること

 熊本に戻る理由はもう一つある。
 それはお世話になった熊本の人への恩返し。今年4月、香月は熊本地震の被災地支援をQVCマリンで涙ながらに訴えた。今の自分があるのは、熊本で社会人野球を続け、そこで成長させてもらったおかげ。今でもたくさんの友人がそこで過ごしている。その人たちのためにも、今の自分が何かできるなら、少しでも自分が育った『鮮ど市場ゴールデンラークス』のために自分がなるなら、その思いが、次の人生に背中を押した。
 
「それぞれに辞め時があると思うんですけど、みんな納得して終わりたいというのは一緒です。僕の場合は(プロ球団から)オファーがない時点で納得して辞められたんです」
 
 震災のあった熊本で、少しでも子供たちが野球の出来る環境を整えたいという思いがある。その旨は鮮ど市場ゴールデンラークスの田中にも伝え、すでに賛同してもらっている。
 
 「僕、本当は努力って言葉が好きじゃないんですよ。努力を努力と思わないでいたいタイプなので。ただ、僕にはやればやっただけ成功するって社会人時代の実体験があるじゃないですか。だからやれば成功できるんだ、やらないと何も始まらないんだっていうのを、身をもって知っているわけです。だから自分は他人よりそれができたんだと思いますし、そういう意味では子どもたちもそうですし、たくさんの人にそれを伝えたいと思っています。
 
今回の取材を受けたのも本当の理由はそれです。これを読んでいる大半の人がそうだと思うんですけど、何かのプロジェクトに成功したり、誰かに認められたら人ってやる気が出るわけじゃないですか。その前にやらなきゃ何も始まらないと伝えたい。野球の世界は面白くて、下手なやつほど練習しないし、上手いやつほど練習するところでしたけど、それじゃ逆転なんてできるわけない。でも、僕は子どものころからベンチにも入れないくらい下手くそで、そこから練習して今、ここまで来た成功体験を持っている。それを伝えたいんです。(ロッテでやっているときも)今日、自分が練習をしたことでまた周りと一歩差を縮めることができたと実感するときが何度もあった。それは思い込みかもしれないけど、自分で自分を洗脳していかないとモチベーションだって上がるわけがないじゃないですか。僕はそうやって8年間を過ごしてきた」
 
 この取材の約束時間に彼は昼を選んだ。そこにも彼なりの理由があった。
 
「仮に夜会って、その日ゆっくりしてしまうとします。すると次の日の予定が狂うじゃないですか。固い人間と言われたらそうかもしれないです。『あいつ、もうプロじゃないのに何やっているんだ』って思う人もいるかもしれない。実際、僕も走りながら『何をやっているんだろ』と思うこともあります。だけど、今後アマチュアで野球を続ける意思がある以上、中途半端にやるのは嫌なんです。今までやって来たプロの生活より自分の練習のレベルを下げてまで、続けるなら僕は野球をするべきじゃないと思います。毎年、年はとるんですけど、1日、1日、自分のレベルを上げていかないと野球を続ける意味もない。その考えでないならアマチュアで続けるのも失礼だなって感じるんです」
 
 取材の終盤に昨年の怪我について、もう一度訊いた。すると彼はこう答えた。
 
「たしかにあれ(昨年秋の怪我)がなかったら、とは今でも思います。だけど、起きてしまったことは仕方ないし、時間はもう戻らないので……。今考えるとこれも最初から自分の運命として決まっていたことなのかなって考えるようにしています」
 
 香月良仁のプロ野球人生は一旦これで幕を閉じたのかもしれない。しかし野球人としての生活はまだまだこれからである。彼の人生の新たな幕が今、開こうとしている。

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