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ロッテ・涌井秀章、西武・岸孝之の対決にみた“エースの条件”。渡辺SD「意外とライバル心を持っている」【中島大輔One~この1対1をクローズアップ】

 7月5日のQVCマリンフィールドでは濃密な時間が流れていた。ロッテのエース・涌井、西武のエース・岸が投手戦を展開。その対決にはかつての恩師・渡辺久信SDが語っていたエースとしてのあるべき像を体解しようとする二人の姿があった。

2016/07/11

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二人はどのようにマウンドを降りたのか

 この日、先にマウンドを降りたのは岸だった。
 
 8回裏、1死から3人の走者を出して満塁のピンチを背負う。ここで迎えたのは、前打席でライト前安打を打たれている清田育宏。
  
 4球目まですべて内角寄りにチェンジアップ、ストレート、チェンジアップ、ストレートと投じ、1ボール、2ストライクと追い込んだ。
 
 勝負球としてバッテリーが選択したのは、真ん中低めのカーブ。その決定について、捕手の炭谷がこう振り返る。
 
「あのゲーム中、カーブの信用度が高かった。最後、僕の中では内角の真っすぐという選択もあったんです。ただ、それだったらゲッツーはない。ヒットか三振の結果しかない。カーブなら高めに来れば負け、低めだと三振かゲッツーになると思いました」
 
 岸はこの試合を通じ、代名詞の大きく割れるカーブを有効に使っていた。序盤はチェンジアップを極力封印し、ストレートとカーブで緩急をつけていく。中盤からチェンジアップを増やすことで、投球に奥行きを出した。そうして相手打者の目先を変えて、そこにカーブをうまく織り交ぜることでロッテ打線を封じ込めた。
 
 そうした布石があり、清田を迎えた絶体絶命のピンチでカーブを選択したのだ。
 
 一方、岸は結果球をこう振り返る。
 
「甘くならないようにと低め意識で投げた結果、ああいう最高の形で終われました」
 
 清田に対し、大きな弧を描いたボールは外角低めに向かっていく。ショートに弾き返されたゴロはセカンド、ファーストに転送され、併殺打で一気にピンチを切り抜けた。岸は8回1失点とエースの仕事を果たし、ゆっくりマウンドを後にした。
 
 その直後、涌井に5安打と抑えられていた西武打線は9回1死から金子侑司、栗山巧の連打で1、2塁のチャンスをつくる。
 
 だが、ここで涌井が立ちはだかった。秋山翔吾に対し、140km代のストレート、シュートを5球続けて追い込むと、最後は膝下に落ちるスライダーで空振り三振。
 
 圧巻だったのが、続く中村剛也に対してだ。初球は内角低めに146kmのシュートでファウルを打たせると、2球目は外角低めのボールゾーンに変化するスライダーでバットに空を切らせる。3球勝負を選択し、外角低めのコースいっぱいにこの日最速の150kmストレートを投げ込んだ。中村は手を出すことができず、見逃し三振。涌井はグラブをパチーンとたたき、威風堂々とベンチに引き上げた。

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