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さよならだけど、さよならじゃない――野球人・成瀬善久に贈る言葉

初勝利を挙げた06年から、実に9年間にもわたってマリーンズを支え続けてきたエース左腕・成瀬善久のFA退団&スワローズ入りが正式に発表されて、10日あまり。エースという大黒柱を失ったチームは、来たるゴールデンイヤーをどう戦うべきなのか──。騒動の勃発以降、ファンの胸中をずっとヤキモキさせてきた一連の成瀬問題がようやくの決着を見たところで、あらためてこの〝事件〟を振りかえりたい。

2014/12/04

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エースが抜けた来季のマリーンズ投手陣は……

 一方、たとえここ数年の成瀬の成績が芳しくはなかったと言っても、不動のエースである彼が流出したことによる、わがマリーンズの戦力ダウンも否めない。

 まかり間違って、由規や村中恭兵あたりがプロテクトリストから外れていたりしようものなら、人的補償で投手を獲るという選択肢も大いにアリだが、投手陣に爆弾を抱えた選手が多いことこそがスワローズ低迷の元凶でもあるだけに、彼の抜けた穴を埋めるに足る人材の獲得というのは、あまり現実的とは言いがたい。

 個人的には、〝兄弟バッテリー〟という話題性の面でも魅力的な、江村直也のアニキ・将也を獲って、記念すべき初勝利の日に、かの前田智徳の選手生命にとどめを刺す死球事件を起こしてしまった悪夢の呪縛から、彼を解き放ってあげて欲しいとも思うが、当の成瀬の今季年俸から考えると、3000万円以下の選手を獲るのは、実質的には“損”でしかないのもまた事実。

 お得感という意味でも、「60%の金銭」(=8640万円)を元手に、激安なわりには、まぁまぁ活躍してくれたマーフィー的な助っ人を2人ぐらい連れてくるのが、妥当な落としどころではあるのだろう。

 まぁもっとも、戦力に不安があり過ぎるのは、今に始まったことでは全然はないので、あれこれ思いあぐねていても仕方がない。「潤沢」などという言葉とは無縁の僕らには、唐川侑己と涌井秀章がエースと呼ぶにふさわしい活躍をみせて、石川歩が2年連続の10勝。そろそろ正念場な大嶺祐太や藤岡貴裕らが、突如覚醒してそれなりの貯金を作ってくれれば、案外なんとかなる気がしなくもない……などと、超プラス思考で来シーズンに思いを馳せる以外にないのである。

 ともあれ、成瀬が正式にスワローズの一員となってしまった以上、彼に対して僕らがしてやれることはその活躍を生暖かく見守ることだけ。狭い神宮球場で〝飛翔癖〟を爆発させた彼が、チームメイトのバレンティンとホームラン競争を繰り広げたりしないことを祈るぐらいのことしかない。
 
 ちなみに、3割打者を5人も擁するスワローズ打線の得点力は、マリーンズ打線の1試合平均3.86点を大きく上回る、4.63点で12球団トップ。成瀬の通算防御率が3.16であることを考えれば、マリーンズでは負けに直結していた試合終盤での〝飛翔〟も、スワローズ打線ならカバーできる可能性は大いにある。

 いくら応援はすると言っても、それが功を奏して、彼がいともたやすく07年以来の15勝をクリアしてしまったりするのも、それはそれで複雑なわけだが、とにもかくにも、新生・成瀬の第2章はまだ始まったばかり。

 そんな彼には今こそ、若い世代には絶対伝わらないであろう、やまだかつてないWinkの往年の名曲。「さよならだけどさよならじゃない」を贈りたい。

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