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ライオンズ・渡辺直人、窮地の時こそ必要とされるベテランの力。プロ10年目の男が見せた存在感【中島大輔ONE~この1打席をクローズアップ】

誰しもがそのプレーを覚えているわけではない。けれども、試合を振り返る中では、決して、外すことができないプレーがあった。6月25日の西武―ロッテ戦。10年目のベテラン渡辺直人が難なくこなしたその一仕事は、試合を大きく左右した。

2016/06/27

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100%任務を遂行しなければいけない場面での大仕事

 2点を追いかける8回裏、先頭打者の栗山巧が持ち前の選球眼で四球を選び、鬼崎裕司がライト前安打で続いて無死1、2塁。

 ここで打順が回ってきたのは、2回の1打席目でレフトスタンドに弾丸ライナーを突き出した長距離砲の山川穂高だ。6回には変化球にうまく体を残してレフト前安打を放つなど、ここまで3打席続けて出塁している。

 しかし、西武ベンチは山川を打席に向かわせなかった。代わりに渡辺を送り、バントの指示を出したのだ。

 もし失敗すれば、ベンチの選択は大きな批判を浴びていたはずだ。前日の7回には5対7から3連打で1点差に迫って迎えた無死1、2塁で、浅村栄斗に送りバントのサインを出し、痛恨の併殺となってチャンスを潰したばかりだった。

 その翌日で、しかも8回まで進んだ試合展開、さらに山川の代打で打席に向かった意味を考えると、任務を100%遂行しなければならない。そんな場面で渡辺は初球、着実に二人の走者を送ってみせた。

「久しぶりに痺れる場面でしたね。しかも代打だし。決まってホッとしています」

 渡辺に聞きたかったのは、打席にどんな気持ちで向かったのか。極限のプレッシャーを感じる場面で、前日にチームメイトの犯したミスが頭をよぎることはなかったのだろうか。

「よぎらないと言ったら、ウソになります。でも、それを上回る気持ちでカバーするというか、邪念を持たずに強い気持ちで打席に入りました」

 渡辺のようなベテランになればなるほど、この日の試合が持つ重みは重々承知していたはずだ。前日には群馬開催のホームゲームで地元出身の髙橋光成が先発したものの、6回2死から4点のリードをひっくり返されて逆転負け。

 この日は初回から守備にミスが出て、さらにビデオ判定で先制されるという嫌な出だしだった。それでも途中で2度リードを奪いながら、7回にエラー、野選と守備の乱れで再び勝ち越しを許した。この試合を落とすと、3位日本ハムとのゲーム差は6に広がる。ケガ人続出の西武にとって、息苦しい試合展開だった。

 それでも渡辺は、チームのために、自分の仕事を黙々と果たすことだけを考えていた。

「ミスもあったり、(試合展開が)正直重たいなと思っていました。そこで自分に出るところがあれば頑張ろう、と。考えていたのはそれくらいですね。みんな一生懸命やっているので。失敗しても、成功しても、手を抜かずにやっています。だから、自分もその流れに乗りました」

 数年前からベンチ出場が多くなっている一方、スタメンで出たい気持ちは今も変わらない。今年の4月下旬にはサードで先発起用され、結果を残していたものの、左太もも裏の負傷で5月4日に登録抹消。2軍調整中には肉離れにも見舞われたが、1軍でチームに貢献することだけを考えてコンディションを整えた。

 そして約50日後、仕事場所にようやく戻ってきた。

「スタメンで出たい気持ちはもちろんあります。(試合途中から)出たところで、結果を数字として出していけば……。ただ、試合に出る、出ないは自分で決められないので、出たところでしっかり結果を出すことに集中しています」

 ロッテにサヨナラ勝ちした25日の試合前、そう語っていた渡辺に最後、聞きたいことがあった。1軍復帰して勝利に貢献した今、心の中にはどんな感情が広がっているのだろうか。

「いや、もう、ホッとしています」

 そう言って見せた安堵の表情は、仕事人の矜持を何より物語っていた。

 この3連戦を負け越した西武が苦しいチーム状況にあるのは、依然変わらない。ただ、その流れに今必要とされる変化があるとしたら、こうしたベテランの力かもしれない。

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