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星野仙一元監督の名参謀が明かしたヘッドコーチの仕事――選手のみならず、監督の心のケアも【横尾弘一の野球のミカタ】

球団によって監督の下にヘッドコーチを置くケースがあるが、その役割とは何だろうか。かつて日本一の名ヘッドコーチと言われた、星野元監督の名参謀の言葉から考えてみたい。

2016/05/05

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監督はペナントレースで3度心の病にかかる

「野球のようなチームスポーツは、戦術や技術による力も大切だけれど、やはり人間の集団。気持ちがひとつにならないと、思い通りの戦いはできないもの。チームの調子がよくない時は、監督もコーチも、そして選手もカリカリしている。その潤滑油になるのが自分の役割だと受け止めていた」
 
 調子の上がらない選手がいると、島野は二人きりで対話する時間を持ち、選手の腹の中のものをすべて吐き出させた。監督の起用法への不満もあれば、すっかり自信を失っていることもある。島野が優れていたのは、選手がどんなことを口にしてもただ聞くだけ。監督にも報告せず、本当の意味で“ここだけの話”にしたことが、選手たちとの厚い信頼関係を築いたのだ。中日でプレーしていた当時の落合も、「この点において、島野さんは最高のヘッドコーチだった」と振り返る。
 
「選手の抱える悩みは、野球のことだけじゃない。独身なら彼女との将来に悩んでいることもあるし、家庭の問題でプレーに集中できない場合もある。もちろん、グラウンドでのことも含め、思いのたけを誰かに話せば、それだけで気持ちが軽くなることも多いんです」
 
 そうやって縁の下の力持ちのようにチームを支えていた島野は、星野監督に対しては最重要任務があったという。
 
「星野監督は『闘将』とか『熱血漢』と言われますが、実はとても繊細。チームの成績がいい時でも、『これでいいんだろうか』と自問自答しているタイプなんです。そうやって考え込むと、ペナントレースの間に3度は心の病にかかる。そんな時は選手に対して感情的になるし、作戦が場当たり的になることもありました」
 
 阪神時代に相手投手のフォークボールを打てずに負けた時、星野監督は「フォークボールを打つ練習をせい!」と命じたという。だが、その練習には意味がないと考えた島野が制し、選手の足が動くよう守備練習をしたこともあったという。
 
「監督という仕事は本当に孤独です。だから、心の病にかかったと感じたら、監督には先に帰宅してもらい、私がミーティングを取り仕切ったこともありました」
 
 ペナントレースは選手のパフォーマンスで順位が決まるが、その選手たちをどう動かすかという監督の手腕も大きく関わる。つまり、選手の状態はいいのに、監督の頭が冴えずに星を落とすことも珍しくない。監督時代の落合も、試合後に何度か「私の下手な采配で選手の足を引っ張った」と発言したことがあった。そんな監督のコンディションを管理するのもヘッドコーチなのだ。テレビ中継でダッグアウトが映ったら、ヘッドコーチの様子を観察してみるのも面白いだろう。
 
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