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かつては名選手を輩出したポジションの今。西武の遊撃手はなぜ定着できないのか

外崎・金子ら有望なレギュラー候補がいるが、ここ数年、ライオンズのショートが固定できていない。その要因の一つとして人工芝の弊害があるという。

2016/04/18

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外崎、金子は期待を背負っているが……

4月13日のソフトバンク戦は本拠地の西武プリンスドームではなく、県営大宮球場で行われた。普段の人工芝ではなく土のグラウンドのため、ゴロのバウンドが不規則になりやすい。つまり、いつも以上に高い守備力が求められる。

その試合で先発起用されたのは、今季開幕戦からショートで6試合連続スタメン起用された外崎修汰だった。だが、首脳陣から最も期待される大卒2年目の遊撃手は、この日までに今季2エラーを犯していた。

そして土の大宮で行われたこの日、2失策を記録。いずれも正面に飛んだ強めのゴロだったが、動きが固く、打球に対応できなかった。しっかり足を使って守れば、十分に捕球できる当たりだった。

外崎同様、首脳陣の期待を背負う大卒4年目の金子侑司も守備に不安を見せている。4月16日のオリックス戦は天然芝のほっともっとフィールド神戸で開催され、2つのエラーを犯した(捕手の送球を捕球できなかった失策と、ショートゴロの失策)。また、人工芝の西武プリンスドームで行われた同12日のソフトバンク戦では、3回に松田宣浩の放った普通のショートゴロに対して、打球判断、捕ってから送球するスピードともに遅く内野安打にしてしまった。

外崎、金子ともに俊足で、高い身体能力を誇るため、内野で最も難しいとされるショートをプロでも任されている。反面、持てる能力が結果的に仇となり、守備の基本をじっくり習得しないままここまで来たのではないだろうか。

ショートでゴールデングラブ賞を4度獲得している松井稼頭央について、西武時代は「守備に問題があった」と熊澤氏は指摘する。02年にトリプルスリーを達成するような身体能力を備えるあまり、逆に弊害を生んだというのだ。

「稼頭央がかわいそうだったのは、あいつの天才的なところだけにみんな喝采を送ったわけですよ。稼頭央にショートを守らせておけば、人が捕れないところを捕ってアウトにする。でも実際日本にいたときからエラーも多いし、そのエラーもスローイングだったりするわけです。そうした基本をやっておかなかったのが、(メジャー移籍時に苦しんだ)一番の問題でした」

松井は熊澤氏とともにアメリカでステップやグラブさばきなどの基本を見つめ直し、さらに下降傾向にあった身体能力をトレーニングで高め、07年にロッキーズの正二塁手としてワールドシリーズ出場を果たした。天性の才能に確かな土台を加えたからこそ、楽天移籍後は30代後半までショートのレギュラーを張り、40歳の今も外野手として現役を続けることができている。

現役時代にショートとして名を馳せ、現在巨人の三軍を率いる川相昌弘監督がこんな話をしていたことがある。

「プロの選手だから(能力があるので)、いい加減にやっても捕れたり、守れたり、打てたり、投げられたりする。ただプロの場合、いい加減でも何でもいいから、確率が上がらないことにはこの世界でずっと生きていけない。基本に忠実に、丁寧にやり続けられるかどうかがすごく大事」

稀代のいぶし銀として24年間の現役生活を送った川相監督は、巨人の二軍を率いていた頃、手でゴロを転がして捕球させるほどの基礎から若手に繰り返させた。「『プロがなんでこんな練習をするんだろう?』と思ったかもしれない」と語る一方、伝えたかったことがある。

「プロは確率の勝負。ちゃんと捕っていいボールを投げてアウトにできる人が試合で守れるし、少しでも打てる人が打席に立てる。そのためには毎日やっている何でもないような基礎練習を、妥協しないでできるかどうかだと僕は思っている。それを選手にもわかってほしい。今後、ユニフォームを脱ぐまでそれが続くと思っている」

西武が80~90年代に常勝を築けた裏には、守備の基本を徹底させてきたことが一因にあると熊澤氏は言う。しかし、徐々にそうした伝統は失われ、身体能力に優れる選手がショートに抜擢されるようになった。そうしていつしか基本がおざなりとなり、ここ数年は大きな穴が開いた状態にある。

大宮で行われた13日のソフトバンク戦後、土のグラウンドで外崎を起用することに不安はなかったかと田邊監督に聞いてみた。

「エラーが出なければいいんだけど、出てしまうときもある。外崎は2年目、少しは我慢しないといけないところもある。それによって(エラーで)何かを感じてくれればいいし、次にエラーしなければいいことだし。みんな、そうやって成長していくんだよ」

田邊監督の言うように、実戦を重ねなければレベルアップはない。失敗を力に変えることで、人は大きく伸びていく。だが、首脳陣の我慢が続くうちに成果を出さなければ、いつまでもチャンスが与えられるとは限らない。

西武の試合前にはいつも、現役時代に名手としてならした奈良原浩内野守備・走塁コーチがノックバックを握りながら、若手に身振り手振りで守備の基本を伝えようとする姿がある。

練習や試合、普段の会話を通じ、果たして外崎や金子はどんなメッセージを受け取っているのだろうか――。

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