大谷翔平選手をはじめとした日本人メジャーリーガーを中心にメジャーリーグ・日本プロ野球はもちろん、社会人・大学・高校野球まで幅広いカテゴリーの情報を、多角的な視点で発信する野球専門メディアです。世界的に注目されている情報を数多く発信しています。ベースボールチャンネル



育成や指導に通ずる日米仕上げ方の違い アメリカのキャンプインはなぜ遅い?【元ドジャーススカウト、小島圭市の禅根夢標】

読売ジャイアンツなどでプレーし、その後ロサンゼルス・ドジャースの日本担当スカウトとして当時、黒田博樹投手や齋藤隆投手の入団に携わった小島圭市氏の連載。小島氏は現在、スポーツ環境の向上から青少年の育成に積極的に関わっています。今回のテーマは「日米両国のキャンプの考え方」についてです。

2015/02/22

text By



時期が遅い分、個人差が表れやすい

 キャンプの開催時期が遅い、もう一つの良さがあります。それは、シーズンオフからどのような取り組みをしてきたかの個人差が出ることです。個性が伸ばされて、飛躍的に伸びる選手が出てきます。つまり、やる選手・やらない選手がくっきりと出るから、面白いんです。アメリカは、公式戦が終わったその日にチームは解散します。プライベートの付き合いがある選手同士はともかくとして、翌春のキャンプまで会わないことがほとんど。自分がその期間に何をしているかは明らかにしません。自分の手の内を見せるのと一緒ですからね。
 
 日本の場合は、2月1日に一斉にスタートします。みんなと一緒にやって、同じように練習をしていたら、同じだけしか成長しないのではないでしょうか。一律にやることよりも、その差を生むことも一つの方法論として考えても良いと思います。
 
 そもそものキャンプのあり方が違うので、なかなか難しいことでしょう。日本はキャンプインしてから1カ月鍛えて、1年間の体力をつけるという考え方ですよね。語弊がないように言いますと、練習はやればやるほどうまくなるのですが、エサの与え方が非常に重要です。お腹がいっぱいの状態では食べられないのと同じで、体が疲れている状況でやるのは、「やればやるほど、うまくなる」ということにはならないのです。投げ込み1000球、打ち込み、特守など、考えていく余地はあるのかもしれません。
 
 アメリカでは、指導者が指示することはほとんどありません。技術練習などでもそうです。例えば、調子の上がらない選手がいたとして、「ここがダメだ」と言いません。まず、「どう思う?と尋ねます。「うまくいってないと思う」と返してきたら、「なぜ、うまくいってないと思う?」「わからない。立った時にフラフラしちゃう」。「それはバランスが取れていないということかもしれない。じゃ、バランスが取れる練習をちょっと入れてみようか」となる。それをトレーニングコーチに言って、バランスがよくなるトレーニングの種目を多めに入れてもらって、それができるまでは投げるほうを控えてバランスをとったりする。指導のアプローチの仕方が違うんです。
 
 つまり、アメリカの指導者は何も言わないのではなく、話すタイミングやアプローチの仕方が違うんです。
 生き物には、半年で育つもの、1年で育つもの、2年で育つものがあります。それらをそれだけの年月をかけて育てようとしますが、早まることはないのです。1年で育つものが半年で育つということはなく、1年でも2年でも掛けて、遅くなる分にはまだいい。ところが、日本の育成は早くしてしまう傾向があります。促成栽培ではなく、熟成栽培が人材育成のポイントであるのです。

 
 このように、アメリカのキャンプは徐々に上げていきます。ゆっくりやりましょう、というのがあります。チームプレイの確認を1回しますが、シートノックはしません。ノックは個別でやるだけです。とはいえ、キャンプ中の競争は、1年間のうちでシーズン中よりも激しいです。特に、キャンプ招待の選手にとっては、メジャーに残れるかどうかですから、最高の状態で合わせて来ています。そうした選手たちのバトルが繰り広げられるのも、アメリカのキャンプの見ごたえの一つでしょうね。
 
 日米のキャンプを比較して述べてきましたが、どちらが正しいかではなく、何が良いかの検証することも大切です。日本のそれぞれのチームがどういう野球をやるのか、どういう風に向かうのかは自由でいいと思います。それがチームの色ですからね。ただ、その議論はされているのではないでしょうか。2月1日にキャンプが始まるのは慣例になっていますが、それに対しての議論があってもいいのではないでしょうか。オープン戦と開幕は決まっているわけですから、「うちは2月10日からキャンプインします」というチームがあっていい。この練習に無駄はないか。そうした検証をしてみるのも、野球界の発展にはいいのかもしれません。
 
—————–
小島氏の連載バックナンバー↓
 
気になる野球選手のオフの過ごし方 ピッチング開始まで焦らず、緩やかに【元ドジャーススカウト、小島圭市の禅根夢標】
「子どもは〝勝手に〟うまくなる」。発想の転換を促す指導が、自由なプレーを生み出す【元ドジャーススカウト、小島圭市の禅根夢標】

年齢で括らず、段階的成長を促す 子どもたちの野球指導の見直しを【元ドジャーススカウト、小島圭市の禅根夢標】
「ボール投げ」の能力低下は必然――大谷翔平選手から考える、ジュニア年代に求められる〝アスリート教育〟【元ドジャーススカウト、小島圭市の禅根夢標】
野球界のトップアマの海外挑戦も、時間の問題【元ドジャーススカウト、小島圭市の禅根夢標】
野球界も、若年層から積極的な海外挑戦を!【元ドジャーススカウト、小島圭市の禅根夢標】
日本人内野手はなぜ、MLBで通用しない? 野球界に求められるジュニア世代からの育成改革【元ドジャーススカウト、小島圭市の禅根夢標】

【元ドジャーススカウト、小島圭市の禅根夢標】平野佳寿投手は、MLBでも成功するタイプの投手~黒田博樹投手、カーショウ投手らに共通する「好投手の条件」
【元ドジャーススカウト、小島圭市の禅根夢標】田中将大投手は、投球スタイルの転換を~ヒジの故障から考える日本野球界の課題
 
小島圭市 (2)
 
元ロサンゼルスドジャース 日本担当スカウト
小島圭市(こじま・けいいち)

1968年7月1日、神奈川県生まれ。東海大高輪台を卒業後の86年、ドラフト外で巨人に入団。 92年にプロ初勝利を挙げるなど、3勝をマークした。その後は故障に泣かされ、94年のオフに 巨人から戦力外通告。巨人在籍中の怪我の影響で1年浪人のあと、96年テキサスレンジャーズとマイナー契約。1年間、マイナーリーグで活躍した。翌年に日本球界に復帰し中日ドラゴンズでプレー。その後は、台湾の興農ブルズなどで活躍し、現役を引退した。01年日本担当スカウトに就任。石井一久、黒田博樹(ヤンキース)、斎藤隆(楽天)の獲得に尽力。三人が活躍したことから、スカウトとしての腕前を評価された。2013年にスカウトを退職。現在はジュニア育成のため、全国の小・中学生の指導者へ向けた講演会活動や少年野球教室を展開している。

1 2