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マンフレッド新コミッショナー「極端な守備シフト禁止」を示唆 発言に隠された、セルフプロデュース戦略【豊浦彰太郎の Ball Game Biz】

マンフレッド新コミッショナーは「極端なシフト禁止」などの改善案を提案している。それは野球本来の魅力への憧憬だけでなく、稀代の名コミッショナーの後任という十字架の元での自己PR戦略でもあるのではないか。

2015/01/28

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マンフレッド改革で、近年の投手優位状況を矯正か?

 実は、MLBでは昨年秋のアリゾナ教育リーグで試験導入した投球間隔を計る時計の設置を、今季は2Aと3Aで導入することを決めた。もちろん、近い将来のメジャーでの導入を念頭に置いた上での判断だ。それだけ、MLBは年々長くなる一方の試合時間の短縮の必要性を感じているのだ。
 
 また、マンフレッドは選手組合に数々の具体策からなる「改善パッケージ」を提案している。それらは、近年の投手優位状況の矯正を目指したもので、マウンドを若干低くする、ナショナル・リーグでのDH制の導入、ストライクゾーンの見直し、公式球を縫う際によりきつく縛り縫い目を低くする、などだ。これらは、サンディ・コーファックスやボブ・ギブソンなどの大エースが連日快刀乱麻のピッチングを繰り広げた1960年代、実は野球人気が低迷した歴史的事実に基づいている。
 
 ようするに、マンフレッドは「ゲームそのものをより面白くしたい」のだ。
 
 野球本来のオーセンティックな魅力を減じないよう、いや増していくように(改善というより)矯正を加えていきたい、これが新コミッショナーの基本方針なのだ。これは、間違いなく真の野球ファンの琴線に触れるだろう。
 
 では、彼がそのような方針を打ち出したのはなぜか。この素晴らしきアメリカ発祥のスポーツを愛する生粋のベースボール・ガイだったから? それもあるかもしれない。しかし、真意は別のところにあるとみている。
 
 先代のバド・シーリグはメジャーの歴史に残る名コミッショナーだ。近い将来、殿堂入りを果たす5人目のコミッショナーになるだろう。そのシーリグの功績は、何と言ってもビジネス的拡大だった。1992年に彼がコミッショナー代行に就任した時点では年12億ドルしかなかった総収入は、最終年の2014年には90億ドルにまで拡大した。シーリグは、オーナー達だけでなく、それまで敵対関係にあった選手達の財布にもビッグマネーをもたらしたのだ。

ベースボール本来の魅力を取り戻す

「そんなビジネスの天才シーリグの後任である自分は、何を目指すべきなのか?」
 
 おそらくマンフレッドはそれを突き詰めて考えたことだろう。「さらなるビジネスの拡大を目指します」では、仮に成果を出したとしても「シーリグが敷いたレールに乗っただけ」としか評価されないだろう。
 
 実は、元々マンフレッドは労働問題を専門とする弁護士で、98年にMLB入りして以降は安定した労使関係を築いた功労者なのだが、それとて世間一般の認識は「シーリグの功績」だ。そしてシーリグがやらなかったこと、できなかったことを追求して辿り着いた結論が「ベースボール本来の魅力を取り戻す」ということだったのではないか。
 
 リーダーはビジョンを示さねばならない。
 他人と同じことをやったのでは評価されない。そんな欧米スタイルのビジネスマンらしい思考回路で、自らの価値を最大化する戦略を確立した。わかりやすくいえばキャラ作りだ。
 そんな戦略のひとつの提案が、「極端なシフトに対する制約」だったのではないだろうか。マンフレッドもまた冷徹なビジネスマンだ。

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