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MLBを目指すキューバ人亡命選手 加熱する争奪戦の光と影【豊浦彰太郎のBall Game Biz】

今季はNPBにキューバ人選手が国家プロジェクトとして来日し、各チームの中心選手と活躍した。そんな彼らはどちらかというとピークを過ぎた大物が中心と言える。その一方でキューバの若手選手は亡命してメジャーへ渡る。そこには、物理的な危険と斡旋業者とのトラブルのリスクが存在していることも否定できない。

2014/11/29

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命がけのMLB行き

 冒頭紹介したキューバ人メジャーリーガーを筆頭に、これから全盛期を迎える有望株は亡命してまでMLB入りを目指すケースが多い。トマスは冒頭記したとおり6年6850万ドルで、アブレイユは6年6800万ドルだった。いずれもセペダらとは文字通りケタ違いの金額だ。
 
 メジャーを目指す彼らの多くは直接アメリカには亡命しない。
 米国在留者となるとアマチュアドラフトの対象となるためだ(ドラフトはアメリカ50州とカナダ、自治領のプエルトリコ在住者を対象としている)。

 ドラフトの場合は選手と球団の相対取引となるため、契約条件が跳ね上がりがたい。したがって、一対多の自由競争となる海外FAの状態をキープするためアメリカ以外の第3国に亡命するのが一般的だ。

 チャップマンなどは、欧州遠征中にチームを離脱し小国アンドラに亡命したが、キューバ国内からの場合はメキシコ経由が多い。その場合、有名な保養地カンクンから約13km東(キューバ寄り)にあるイスラ・ムヘーレス島へボートで渡るようだ。ボートでの渡航には危険が伴い、その密航海峡には多くのキューバ人の屍が眠るという。

 また、選手が海上輸送をアレンジする業者(亡命者だけでなく麻薬の密輸も手掛けるようだ)との金銭トラブルに巻き込まれることも珍しくない。

 2012年6月、5度目のトライでようやく亡命を果たしたプイーグはその典型で、イスラ・ムヘーレス島で長期間監禁され、その後も密航業者から脅迫を受けた。その業者の中心人物は12年10月になぜか死体で発見された。13発の銃弾を撃ち込まれていたという。

 かつて3度のオリンピック(1972年ミュンヘン、76年モントリール、80年モスクワ)で金メダルを獲得したボクシングヘビー級のテオフィロ・ステベンソンは、何度もプロモーターから大金を積まれアメリカへの亡命を勧められた。

 当時、プロボクシングではモハメド・アリが実力・人気とも頂点にあり、彼との対戦は「世紀のビッグマッチ」として世界中の注目を集めることが必至だったからだ。

 しかし、フェデル・カストロに極めて近い存在であったこのキューバの英雄は、決してそれに応じなかった。彼は、引退後も国家の庇護を受け、キューバの基準では恵まれた、資本主義国から見ると極めて質素な生活を送り、プイーグが亡命した12年6月に60歳で心臓病で死去した。

 ステベンソンの時代から時は流れた。

 キューバの有望株は、今後もメジャーを目指すだろう。しかし、彼らが経なければならない道程には、物理的な危険と好ましからざる人物が待ち受けていることも否定できない。

 ギャングまがいの密航業者と、彼らを操りキューバ人選手を亡命させメジャーに売り込もうとする中間業者の背後でMLB球団が糸を引いていることがなきよう私は祈っている。球団関係者と彼らの間での行きすぎの関係がスキャンダルとならねばいいが。

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